ミッション〜エロ本の自販機を攻略せよ 「よし、そろそろ行くぞ。」 それは夜の11時。僕らは一大ミッションを開始した。
当時の僕らは中学1年生。チンコの毛もやっと生え揃ってきたくらいの時期。さすがに本屋でエロ本を買うには少しばかり早すぎる。でも、エロいものが見たくて見たくて仕方ない頃、箸が転げただけで勃起する。そんな年頃だった。
ことエロに関してだけは強烈にリーダーシップを発揮する上村。僕と塩田はおとなしく従うことにした。チームワークが無くては誰にも見られずに自販機からエロ本を買うミッションは達成できない。わずかばかりのお金を出しあった僕らは、上村を先頭にエロ本の自販機へと歩みを進めた。 「塩田二等兵。まず一人で行って買うものを吟味してこい。」 自販機手前の路地に隠れた上村は、エロ選定眼には定評のある塩田に偵察を命じたのだ。確かにエロ本を何冊も買えるお金も無いし、そんな時間の余裕も無い。下手を打って自分たちの母親の年齢くらいのオバサンたちが脱いでるエロ本を買ってしまうという失敗は許されない。危険度は増すが偵察という作戦は正しい。塩田はさりげなく自販機の前を通り過ぎ、サンプルとして見える本の表紙を凝視した。行き帰りの往復の間に素早く2度。端から見てると明らかに不審者にしか見えない。しかし塩田は何かをやり遂げた満足そうな表情で戻ってきた。 「隊長!左上から2番目の"秘密の花園"が良いかと思われます!」 「うむ。してその値段は?」 「750円であります!」 「よし。それで行くぞ。二人は見張り役になってくれ。」 そして辺りに誰もいないのを確認して自販機の前へ。緊張がピークに達する瞬間だ。しかし、そこには敵の罠が仕掛けられていたのだ。自販機にお金を入れようとした次の瞬間、真っ先に自販機から逃げ出す上村。 「どうしたんですか隊長。」 「ご・・・500円玉が使えないんだ。」 思いもよらぬ罠にいきなり出鼻をくじかれ、早くも心が折れそうになる。 それでも一度退却し、100円玉を寄せ集めて再び自販機の前へ。合計8枚の百円玉を一枚一枚入れていく時間は何よりも長く感じられた。上村の後ろで見ていた僕も緊張で心臓がバクバクいってる。塩田は少し離れたところで見張りをしていた。 古くさい自販機のため、お金を入れ終わってもすぐにはボタンが光らない。ボタンを押す前に、人の気配を感じた塩田が走ってやってきた。 「ヤバイ!人が来た!逃げろ!」 民家の影に隠れて見ていると、千鳥足のオッサンがやってきた。エロ本の自販機の横にあるビールの自販機の前で立ち止まる。どうやらビールを買いにきたようだ。(夜遅くでもビールやタバコが買えた時代) そしてビールを買い終えたオッサンは、横にあるエロ本の自販機のボタンが光っていることに気付いてしまう。 まさか・・・・まさか・・・・まさか・・・・
やっぱりエロ本を買うなんて僕らには早すぎたかもしれない。言いようのない敗北感に口も開けない僕と塩田。しかし隊長上村は簡単には引き下がらない男だった。 「くそっ・・・・ここまできて引き下がれるか!」 「隊長ぉ・・・・」 「もう一冊分の金はあるな?これで最後だ。今度は俺一人で行く」 開き直ってしまったのか、堂々と勇ましく一人で自販機に進む隊長上村。不覚にもその後姿を見てカッコイイと思ってしまった。エロ本に賭ける情熱は僕も塩田も彼には及ばない。諦めかけている僕らを見て隊長は自ら単独で戦地へ赴いたのだ。
「隊長!隊長!向こうから!人が!」 小声で叫ぶ僕らの声が届いたのか上村も気付いた。しかし上村はそこを動こうとしない。秘密の花園のボタンは押したのだが、なかなか本が出てこない! 自転車がこちらへどんどんと近づいてくる。未成年・・・・深夜徘徊・・・・エロ本購入・・・・学校で親までも呼び出されて説教されている姿が頭に浮かんでくる。しかもその内容が恥ずかしすぎる。捕まって学校に連絡されてしまうのだけはどうして避けたい。だが失敗は許されない。もうこれ以上エロ本を購入する金は無いのだから。 「俺にかまうな!お前たちは先に行くんだ!」 エロ本が出てくるところに手をかざしながら、中腰の状態でブツが落ちてくるのを待つ上村。お世辞にもカッコイイとは言えない姿だったが、なぜかセリフだけは異様にカッコ良すぎる。もう逃げない、そんな意思表示を見せられた僕と塩田は、こんな頼もしい男を友にもって良かったと思い始めていたのかもしれない。 「たいちょお!」 「逃げろ!早く逃げろ!」 上村の背中は紛れも無く漢だった。ことエロいことに関してだけは強烈なまでの漢っぷりを見せてくれる上村を、真に隊長と認めた一瞬だった。
激戦を共にした僕ら三人の間には、達成感という満ちたりた空気が支配する。
上村隊長に釘を刺され、とりあえずは塩田が保管担当になったのだが、その後1ページだけ開きにくいページが出来てしまっていたことに関しては、隊長は何も言わなかった。本当にエロいことに関してだけは立派な隊長だった。 たかがエロ本一つでと思うかもしれませんが、子供の頃はエロ本一つ買うのにもドキドキしたものです。それだからこそ貴重なエロであり、子供の僕らはそのエロをとても大切にしました。こんなワクワクドキドキする冒険。それを乗り越えて僕らは大人になったのです。なんだか冒険の意味を激しく履き違えてる気がしますが、そんなこと気にしません。願わくばこんなドキドキする冒険が、誰もが登る大人の階段であり続けますように・・・・そんな想いでいるのです。 |